約 1,207,358 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/84.html
パジャマ、下着、洗面用具。タオルなんかは美希が貸してくれるだろう。 明日の着替えはどうしよう、と少し迷った後せつなは赤いカットソーとミニスカートを入れた。 今着てる服も帰宅して制服から着替えたばかり。後は夕飯を食べてお風呂に入るだけ。 このまま明日も着れば良いかとも考えたけど、同じ服を続けて着るなんて美希に だらしないと言われそうだから。 クローゼットの中は赤系の暖色がほとんど。後はそれに合わせた定番。 寒色系はほとんど無い。 せつなは赤が似合うよね! せっちゃんは赤が好きよね。 いつの間にかそう言う事になっていた。 でも、似合うってどう言う意味なんだろう。 自分が好きで、尚且つ他人からも好感を持たれる、と 言うことは理解出来る。 自分にとっては赤がそうなんだろうか。 特に赤い色を好んでいるつもりはなかった。 でもいつ頃からだろう。 赤い色を当てると、血の気の薄い青白い肌がほんの少し明るく見える気がしたから。 せつなは窓から射し込む夕日に手を翳す。 日の光を浴びる事なく育った肌は向こうが透けて見えそうな頼りなさだ。 (せつなの肌って本当に綺麗……) ラブはそう言って誉めてくれる。 ラブだけではない。 こちらに来てからは顔を合わせる大抵の人から肌の白さを驚かれた。 綺麗、なんだろうか。 こんな血が通っているのかすら怪しそうな冷たい色が。 自分から見れば、ラブの桃色がかった健康的な肌の色の方がよほど美しいと思うのに。 今着ているのは赤みがかった深い紫。 ボルドー、と言う色だと美希が教えてくれた。 熟れた葡萄の色。秋の実りの色だと。 (熟れたてフレッシュだもんね) そう言って美希が選んでくれた服。 何か少し意味が違う気がしたが、ただ笑って試着した。 着てみると深く暖かい色味が顔色を柔らかく映してくれているように思えた。 いつも美希は赤以外の色を選んでくれる。 赤はラブや他の人も薦めるから。 他人と同じチョイスをするのはモデルのプライドが許さないらしい。 それでもやはり、寒色系は選ばない。無意識なんだろうか。 多分、違う。 美希は明確な根拠は分からなくても、せつなが白すぎる肌を 気にしているのを感じているのだろう。 美希は、誰よりも人の気持ちに敏感だから。 美希の様子が気掛かりだった。 突然の電話。遠目に見えた力無く項垂れた姿。 美希らしくない。いつもしゃんと背筋を伸ばし、常に完璧な笑顔を振り撒いている美希が。 まるで迷子のように心細そうに見えたから。 まだ主の気配の無い隣の部屋。 ラブに掛けた電話は留守録になっていた。 美希の家に泊まる、と送ったメールの返信もまだ来ない。 (………何か、あった…?) 唐突な美希の誘い。連絡の付かないラブ。 せつなの脳裏にもう一人の顔がちらつく。 (美希は、私とラブを今日は会わせたくなかった……?) 一緒に暮らしているのだから、引き離そうとするならどちらか一方を 外泊に誘うくらいしかないだろう。 美希はラブではなく、せつなを誘った。 考え過ぎかも知れない。しかし人がいつもと違う行動を起こす時は、何かしら理由がある事がほとんどだろう。 自分達の関係。美希の位置。ここ最近のラブの様子。そして、一週間前の買い物。 パズルのピースを嵌めるように、せつなは思考を組み立てる。 それぞれの性格や行動パターンを忠実にトレースして行けば、 かなり正確な答えに行き着けそうな気配を感じる。 しかしせつなはそこで考えを止めた。 答えになんて、行き着かない方がいい。 すべてを知る事が正しく幸せだとは限らない。 そのくらいは、もうせつなにも分かっていたから。 先回りして用意した結論なんてほんの少しの状況の変化でゴミ同然の値打ちしか無くなる。 それに自分にとっての最善が他人にもそうだとは限らない。 頭を切り替え、姿見に全身を映す。 そこにいるのは黒髪の少女。 ボルドーの膝上までの長めのトップス。脹ら脛までの黒の細身のパンツ。 こう言う格好の時はベルトをするとアクセントになるって美希は言ってたっけ。 美希は服を買う時は色々と小物も選んでくれようとした。 小物で変化を付けると少ない服でも印象が違って見えるから、って。 アクセサリーなんかもたくさん薦めてくれたけど、結局せつなが買ったのは シンプルな黒いベルト一本だけだった。 (もう!せつなも女の子なんだからもっとお洒落しなくちゃ) (そんなに一度に使いこなせないわよ) 美希みたいにセンス良くないし。 そう言ったのは半分本当で半分は嘘。 ラブに見せられたファッション雑誌、テレビ、学校の友人、周りの人々。 観察していれば、どういった格好が今の流行か。好まれる服装か、と言うのは大体分かる。 個性的なお洒落は出来なくても、無難に纏めるくらいなら悩まず組み合わせる 事くらいはもう出来る。 でも、目立ってはいけない。それが習性として身に染み付いていた。 せつなにとって自分が美しいかどうかなどは問題にした事もなかったが、 自分がこちらの世界では好まれる容姿だと言う事は知っていた。 だってそれも、こちらに潜入する為の条件の一つだった。 人は好ましく思うものには警戒心が薄れる。 そして美しさや可愛らしさは大抵の人間にとって好ましく映るものだ。 この世界に馴染みやすく、溶け込みやすい見た目。 しかし、必要以上に優れた容姿を誇示してはいけない。 目立てばそれだけ人目を集め、動き難くなるだけだ。 そう言った魅力は籠絡する対象にだけ発揮すればいいのだから。 (馬鹿よね。本当に…) 結局、手玉に取るつもりが自分が落とされてしまったのでは目も当てられない。 愛された事の無い人間が、溢れるほどの愛情を浴びて生きている人間を 騙し通す事など出来なかった。 本物の愛情しか知らない人間にどれほど精巧な偽物を用意したって メッキが剥がれるのは時間の問題でしかなかった。 張りぼてが壊れてしまえば、偽物しか知らない人間はなす術もなく本物の輝きの 眩さに目を細める事しか出来ない。 馬鹿な子。そう蔑む事で保っていたプライドなど芥子粒ほどの価値も無かった。 鏡に銀髪の少女の面影を重ねる。 あの頃、ラブ達と接触した後は必ずこうやって鏡で自分の姿を確かめていた。 スイッチオーバーした姿。銀色に流れる髪。深紅に光る瞳。メビウス様が僕、イース。 これが本当の自分なのだ、と。せつなは所詮欺く為の仮初めの姿にしか過ぎないのだ、と。 せつなとイースに見た目に明確な違いがあって良かったと心底思った。 イースに戻っても黒髪のままだったら。もしくはせつなも銀髪のままだったら。 クラインに寿命を宣告されるまでもなく、自分を見失い、狂っていただろう。 イースとしてこちらに来たばかりの頃、目先の事に囚われ享楽的な生を楽しむ人々を 愚かしい生き物だと見下していた。 幸せなどと言う、曖昧な願いを躊躇いもなく口に出来る生ぬるい世界を呪った。 しかし、今なら少し分かる。幸せを願うのは自分の為だけでは無い。 自分も含め、周りすべてが幸せでないと意味がない。 少なくとも、せつなのよく知る人達はみんなそうだ。 だから、ラブが幸せになる為にはせつなも幸せでなければいけない。 そして、せつなの幸せには美希や祈里がいなくては成り立たない。 階段を降りて台所を覗く。立ち込める湯気と夕飯の匂い。 鼻歌混じりに鍋をかき回すあゆみの姿。 せっかく用意してくれていたのに食べずに出掛けるのが申し訳なかった。 「…お母さん」 「あら、せっちゃん。支度出来たの?」 「……その、ごめんなさい。夕ごはん…」 あゆみはせつなの頭をポンポンと撫でる。 まるで小さな子供にするように。 少し前まではこんな何気無い仕草にも随分戸惑ったものだった。 どう反応すれば良いのか分からなくて。 あゆみの方こそ困惑するせつなの扱いに困っただろうに、そんな事は 今までおくびにも出さなかった。 それが大人で、母親、と言うものだと分かるまで、触れられる度に緊張していた。 「ま、今夜はカレーだったし。冷凍しておけば一回分楽が出来るわね」 冗談めかして悪戯っぽく笑うあゆみに、せつなもつい笑みを溢す。 「今回は特別。次からはちゃんと事前に報告よ?」 「はい」 生真面目な仕草でペコリと頭を下げるせつなの髪にあゆみの指が優しく絡まる。 「せっちゃんは美希ちゃんと気が合うのね」 「……気が合う?」 「あら。そう思わない?」 「よく、分からない。でも美希は大好きです」 「ならそれでオッケーよ」 せっちゃんは真面目ねえ。難しく考える事ないのに。 コロコロと朗らかな声であゆみは続ける。 「せっちゃんは美希ちゃんと仲良し。美希ちゃんもそう思ってるから誘ってくれるんでしょ?」 だったらそれが気が合うって事なのよ。 ふんっ!と腰に手を当て胸を張るのがラブそっくりで思わず吹き出してしまう。 本当によく似た親子だと嬉しくなる。 「じゃ、行ってきます」 「はい、いってらっしゃい」 レミさんと美希ちゃんによろしくね。 玄関でもう一度、行ってきます、と声を掛ける。 ドアを開ける背中に、いってらっしゃい、の声が追い掛けてくる。 行ってきます。 いってらっしゃい。 ここに帰って来る、約束の言葉だ。 ただいま。 お帰りなさい。 そう、迎えて貰える。 その事実に慣れ、受け入れられるまでにどれくらいかかっただろう。 こんな温かな場所を自分の棲み家に決めてしまったら、もう他の場所へは 行けない気がしたから。 温かさに慣れてしまうのが怖くて、お母さん、とも中々呼べなかった。 「おや、せつなちゃん。こんな時間からお出掛けかい?」 「美希のところでお泊まりなんです」 商店街の中を歩くと次々と声がかかる。ラブと一緒でなくても。 桃園さん家のせつなちゃん。もう皆が知っている。 自分の行動を他人が見ている。そして、それが人伝に遠くへ伝わる。 水に落とした小石が波紋を広げるように。 こちらの世界に来てからも中々拭えなかった違和感。 ここでは、自分は何の力もない子供だと言う事実。 そして子供の自分が何か不始末をしでかせば、それは即座に庇護者である 桃園夫妻の責任になると言う事。 両親だけではない。共に暮らしているラブ。いつも一緒にいる美希や祈里にまで影響が及ぶ。 そして、それがここでは考えるまでもない常識だと言う事。 人と人とが太い幹から細かい枝葉に至るまで繋がり、響き合っている。 一人の行動が、その一人の属しているあらゆるカテゴリー、 家族、友人、学校、住んでいる場所に大なり小なり影響を及ぼすと言う事。 (こちらの人は、怖くないのかしら…) せつなは恐かった。自分の所為で両親やラブに迷惑が掛かったら。 美希や祈里にまで波紋が及んだら。 考えるだけで身が竦む思いなのに、周りはその事実を平然と受け流しているように感じた。 負担に感じているようにも思えない。 (あったり前じゃん!家族なんだし!) 親が子供を守るのは当たり前。 子供が親に守って貰って、更に我が儘を言うのも当たり前。 我が儘が過ぎて叱られたりもするけど、すぐに仲直り出来る。 そして、それも当たり前。 友達だって同じ。喧嘩したって、迷惑かけたってお互い様。 悪い事したって思うなら、次は自分が助けてあげればいいんだよ。 ケロリと言ってのけるラブにせつなは茫然とした。 愛情を受けて生きていくと、そんな重い事実が当たり前になってしまうのか、と。 同時に妙に納得した。 だからラブはあんなに命が大切なんだ、と。 愛されてるから。 愛してるから。 失えば、取り返しがつかないから。 ラビリンスでは常に誰もが一人だ。メビウスの僕である以外のものは存在しない。 誰かがいなくなっても、ラビリンスに、メビウスに取って不必要だから消えていく。それだけ。 だから命は虫けらよりも軽かった。 だからこそ逆に気楽だったのだ、とせつなは皮肉に思う。 どんな不始末も、どんな失敗も、己の身一つで済んだ。 自分以外のものを何一つ持っていなかったから。 命以上のものを失う心配なんてしなくてよかったから。 (重いわよねえ、まったく……) それは、何と甘美な足枷だろう。 せつなは甘く微笑みながら胸に収めた傷を撫でる。 塵よりも軽かった我が身が、今は地に引き倒され、身動き出来ないほどの 重りに繋がれている。 その一つ一つの重りの何と愛しいことか。 ラブの手を取ったその時から、せつなはこの世界のシステムに組み込まれた。 何度消えてしまおうと思ったか数知れない。 このまま自分がいる事で皆が傷付くなら、黙っていなくなってしまいたい。 しかし、それでは何の解決にもならない事がやっと理解出来たから。 せつなが消えてもせつなのいた痕跡は消えない。 一度関わり、想いを交わしたら、相手の中に自分が宿る。 すべての記憶を消し去らない限り、逃れる事は叶わない。 (もう、怖くないから…) いくら傷付き血を流しても、癒える傷なんか怖くない。 どんな痛みも、抱き締めてくれる腕があるならやがて引いてゆく。 傷が開けばまた塞げばいい。 痕が残っても恥じたりはしない。 自分で選んで、自分で決めた。 それを誇りたいから。 逃げない。 逃げる場所が無いからではない。 ここが、自分の場所だから。 そう、顔を上げて生きて行きたいから。 今、自分に出来る事。 美希が会いたいと言ってくれた。 多分、決して穏やかではいられない心の時に。 そして、笑顔を向けてくれた。 美希に何を求められているかは考えないようにしよう。 今夜、二人で何を話すのか。まだ何も分からない。 辛く悲しい話かも知れない。 また深く傷付くかもしれない。 まったく予想も出来ない事を聞かされるかも知れない。 もしくは、何事もなく、楽しくお喋りして朝を迎えるかも知れない。 (わたしは、どれでもいいわよ。美希…) だって、何も変わらないから。 せつなは空を見上げる。 太陽は一日の終わりを告げる濃く滲んだ朱色の光を靡かせている。 既に空には幾つかの星が瞬き、薄く磨いだナイフのような月も浮かんでいる。 瑠璃色からブルーグレー。だんだん黄色味を混ぜながら朱色へ向かってゆくグラデーション。 なんて贅沢な時間なんだろう。 太陽と月と星。そのすべてを包んだ空が目の前に広がっている。 青空でも夕焼けでも空はいつでも空だ。 どれほど欠けても月はまた満ちて来る。 曇っても沈んでも、太陽はまた昇る。 真昼の星は見えなくても確かにそこにある。 どれか一つでも欠けてはいけない。 欠けることなんて、想像出来ない。 姿が変わっても。色が違っても。昨日とは輝く場所は違っても。 太陽は太陽であり、月は月であり、星は星であり、空はそのすべてを抱き締めている。 そして、何があっても、どんな嵐でも、消えて無くなる事だけはあり得ないのだから。 黒ブキ35へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/363.html
「はい、答えてせつな、鎌倉幕府の出来た年は?」 「えーっと……いいくにつくろう、で1192年ね」 せつなの部屋でノートを片手に向き合う二人。 今は、一週間後に迫ったテストに向けての勉強中。 「はい、正解、じゃあ次は鎌倉幕府の滅亡」 「いちみさんざん……で1333年」 「正解っと……これで試験範囲を一通りカバー出来たね。 じゃあそろそろ休憩しようか」 「うん」 二人は先ほどあゆみが持ってきてくれたお茶で、一息入れることにした。 「ふう……歴史の勉強って、大変ね」 「そーだねー。特にテスト対策ともなると、覚える事多いしね」 「こういうひたすら頭に詰め込むのって……ちょっと苦手かも」 せつなの言葉に、ラブは意外といった表情。 「あれ?せつなが勉強で苦手って言うの、初めて聞いたかも」 「そうかもね……私は、数学や英語みたいに、基礎を覚えれば 後は応用で解ける方が得意みたいだから」 「そっかー、あたしそっち系は全然ダメだからなー。せつなと逆だ。 でも、せつなにも苦手な科目ってあるんだ……それ、あたしは嬉しいかな」 今度はラブの言葉に、せつなが首を傾げる。 「え、どして?」 「いやー、そのおかげで久しぶりにせつなの面倒みてあげられてるわけだし」 せつながラブの家に来た直後は、ラビリンスの常識しか知らない彼女に ラブがそれこそ手取り足取り、いろんなことを教えてあげていた。 でも最近は、何かあってもラブに頼らず、せつな自身で殆どのことは出来るようになった。 ラブはそれを嬉しく思いつつも、少し寂しく感じていたのだ。 「だから、こうやって勉強を見て上げられるのが嬉しいなあって」 「ラブのただ一つの得意科目だもんね、歴史」 「その言い方はヒドいよせつな……いやまあ確かに唯一なんですけど」 自分で言っておいて自分の言葉でうっと落ち込むラブ。 せつなはそんなラブの姿を見ながら少し思案。 そして、良い事を思いついた、とばかりにくすっと笑みをこぼす。 「ねえラブ、そういうことなら私、ずっと歴史の勉強が苦手なままでいいわ」 「え?」 「だって、それならラブが、私の勉強の面倒見てくれるんでしょ?」 「……勉強っていっても、歴史だけだよ?」 「いいの、それでも。私だってね」 そこまで言うと、せつなはラブの耳元に口を寄せる。 「少しでも多く、ラブに構って欲しいと思ってるんだから」 そして、耳元でそっと囁いた。 誰に聞かれることも無い二人きりのこの部屋で、更に深い秘密を告白するかのように。 「……」 ラブは固まったまま。 せつながラブから離れ、自分の座っていた場所に戻るのをじっと見ていた。 言われた言葉を頭の中で反芻して、飲み込む。 その瞬間、火がついたように感情が膨れ上がり、顔に熱となって現れた。 「わ、わ、わ、わ、わは---っ!!」 生じた熱を冷まそうとするかのように、両手をブンブンと振り回すラブ。 「もうせつなってば……そんなこと言われたらあたし嬉しすぎでどうにかなっちゃうよ」 「ふふ、ラブ、それは流石に大げさよ。でもごめんなさい」 口では謝りながらいたずらっぽい笑みを浮かべるせつな。 それを見て、またしてやられた、と気づくラブ。 (なんか最近、あたしってばせつなに振り回されることが多い気がするなあ……) 家に来た頃はあんなに素直だったのに、 いつの間にかこんな悪戯な性格を見せるようになったのか、と思うラブ。 でもすぐに、まあいいか、と思い直す。 (……この可愛い小悪魔に惚れ込んでるのはあたしだしねー。 多少振り回されるのは仕方ないんだ、うん) そして、ラブは自分の両頬を手でパンと叩き、気持ちを切り替える。 だからこそ、こんなことも出来るわけだしね、と心の声に付け加えつつ、 教科書を手に取り、一言。 「よーし、じゃあそろそろ休憩終わり、さっきの復習いくよ! 歴史の勉強ならこのラブ先生にどーんとまかせなさい!」 そう言いながら右手を前に出して、ビシッと親指を立ててみせるラブ。 「はい、精一杯がんばりますから、よろしくお願いしますね、先生」 それに応えるせつなの声。 一瞬の沈黙と、見つめ合う二人。 「あはっ」 「ふふっ」 やがてどちらからともなく起きる笑い声、 それが、二人のテスト勉強の再会の合図になった。 そして同じ頃、ラブの部屋。 勉強の邪魔にならないようにと、シフォンを連れて移動して来たタルトが目にしたのは、 ラブの机の上に積まれた、たくさんのノートとそのコピーの束。 ノートは由美をはじめとしたクラスメイトの名前が入ったものもあれば、 学校が違う筈の美希や祈里のものまである。 そしてそれをコピーした紙には、ラブの字で書かれた注釈があちこちに入っている。 「パッションはんもたいがいやけど、ピーチはんもほんまに一途なお人やわ。 ……自分かて得意な科目やあらへん筈なのになあ」 そう呟くと、隣の部屋から聞こえてくる笑い声を耳にしながら、 やれやれと両手を広げてみせるのだった。 5-386へリンク
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1191.html
【初詣といえば?】 ラブ 「う~ん。焼きソバに焼きとうもろこしでしょ? わた飴にリンゴ飴! それからぁ~」 せつな「ちょっとラブ、食べ物ばかりじゃない。屋台じゃなくて神社が目的でしょ?」 祈里 「そうよ。初詣って、新しい年がよい年でありますようにって、祈りを捧げるものなんだから」 ラブ 「たはは、冗談だっては」 美希 「初詣といえば、やっぱりお賽銭ね。アタシ、モデルの夢が叶いますようにって奮発しちゃおうかな~」 祈里 「待って、美希ちゃん。お賽銭は、願い事を叶える代価じゃないのよ。一年の間に犯した罪を、硬化の音で祓い清めるの。鈴の音と同じね」 美希 「そうなの!? じゃあ、お札よりも小銭をたくさん用意した方がご利益あるのかしら?」 せつな「一年の罪を祓う? ゴクリ。これだけあれば、足りるかしら……」 ラブ 「ああ~っ! せつなダメ~ッ! それ、あたしの百円玉貯金~」 【助っ人?】 あゆみ「ねえ、あなたたち。近所の神社の宮司さんがいらっしゃってるんだけど」 ラブ 「そんな人がどうして家に?」 神主 「実は、巫女が一人風邪で寝込んでしまってな。今から募集しても間に合わん。手を貸してもらえんかね?」 美希 「ハイハイ! アタシやってみたい!」 祈里 「クスッ、モデルの美希ちゃんとしては、巫女姿も気になるのね」 美希 「まあね。ファッションとは違うけど、ちょっと興味あるのよね」 ラブ 「わは~っ、美希たんが巫女になるなんて! きっと、ステキだろうなぁ~」 神主 「というわけで、東せつな君、お願いできるかね?」 せつな「私に? 巫女なんて見たこともないし、ちゃんと勤まるかしら……」 美希 「ちょっと待って! アタシは?」 神主 「スマンのう。美しいのは認めるんじゃが、巫女は清楚で可愛らしい子が望ましいんじゃよ」 美希 「どういう意味よ!」 せつな「美希は目立ちすぎるのよ。ファッションショーじゃないんだから、過ぎたるは及ばざるが如しよ」 祈里 「初詣初めてのはずなのに、難しい諺まで使ってる。せつなちゃんのこの世界の知識ってどうなってるのかな?」 【初仕事?】 ラブ 「あけましておめでとう! せつな。さっそく様子を見に来たよ!」 せつな「おいでなさいませ。ようこそお参り下さいました」 ラブ 「えっ? どうしちゃったの、せつな?」 祈里 「ちょっと、ラブちゃん。みんな見てるんだから、普段と同じように話しかけちゃダメよ」 ラブ 「なんで? あたし、スーパーでレジしてるおかあさんとも家と同じように話すよ?」 美希 「あのね、スーパーと神社は違うのよ」 ラブ 「でも、美希たんだって、おばさんの美容院で同じように話してるじゃない?」 美希 「だからっ! 美容院とも違うのよ!」 せつな「もうっ! みんないいかげんにしてっ!」 参拝客「クスクスクス」 せつな「みんな嫌い! 早く出てって!」 ラブ 「良かった。いつものせつなに戻った!」 祈里 「はぁ~。せつなちゃんより、まずラブちゃんに作法教えなきゃ……」 【迷惑な人たち】 巫女A「大変です! 社務所で新人の巫女が!」 神主 「なにっ、参拝客と揉め事でも起こしたのかね?」 巫女 「いえ、なんだかウケてます。笑いの渦が広がっていて……」 神主 「やれやれ、清楚で可愛らしく、物覚えも良くて働き者。適任だと思ったんじゃが、早まったかいのぅ……」 巫女B「大変です! 拝殿で大男が暴れています」 神主 「すぐ行くから、落ち着いて状況を説明しなさい」 巫女B「はい。そのお方は金髪の野性味溢れる素敵な男性で、注意しようとしたんですが、まるで深い瞳に吸い込まれるようで……」 神主 「聞いておるのは、容姿じゃなくて状況じゃ……」 【その男の名はウエスター。筋肉で幸せを語る者】 西隼人「むぅ。もう年も明けたというのに、どうして除夜の鐘が鳴らんのだ? 手伝ってやろうと思ったんだが……」 南瞬 「それは寺院だよ。そして、ここは神社だ。そんなものは無いよ」 西隼人「なんだと! せっかく俺が鳴らしてやろうと思ったのに」 南瞬 「除夜の鐘は無くても、鳴らすものなら他にもあるけどね」 西隼人「なるほど、この鈴を鳴らせば罪を祓って幸せになれるのか。よかろう! この鍛え上げた肉体で、街中を幸せにしてやろう!」 参拝客「きゃあぁぁ!」 ガラン! ガラン! ガラン! ガラン! ガラン! 西隼人「うぉぉおお! どりゃぁぁああ!」 巫女B「あの~、困るんですが……」 西隼人「なにっ? お前も困ってるのか? 大丈夫だ、任せておけ!」 巫女B「あのぅ、そうじゃなくて……」 西隼人「心配するな。俺が信じられないのか? この目をよく見るがいい」 巫女B「あの……お顔が近くて……ああっ、もう、ダメ」 【その男の名はサウラー。読書家につき博識】 西隼人「うぉぉおお! どりゃぁぁああ!」 ゴキン!(フライパンで殴る音) せつな「や・め・な・さ・い!」 西隼人「アイタタタ。おっ、イースじゃないか!」 ゴキン!(フライパンで殴る音) せつな「私をその名で呼ばないで!」 西隼人「ぐぉぉぉ……。なんでお前、フライパンなんて持ってるんだ?」 せつな「巫女の必需品よ!」 西隼人「さすがの俺でも、それはウソだとわかるぞ……」 せつな「うるさいわね。だいたい、なんでアンタたちがここに居るのよ!」 南瞬 「君が神社で奉仕してると聞いてね。心配でちょっと様子を見に来たのさ」 せつな「白々しい! そうやって、私をからかうつもりね。バチが当たるわよ?」 南瞬 「バチが当たるのは君の方だよ。そんな言葉使いでいいのかい?」 せつな「グッ、ようこそお参り下さいました……」 南瞬 「では、そこのお守りをもらおうか」 せつな「○○円のお参りとなります。ありがとうございました」 南瞬 「違うね。そこは、『ご苦労様でした』と言うのが正解だよ。やれやれだ」 せつな「わかってるわよ! あんたたちが来るから調子狂ったんじゃない!」 【お説教】 神主 「クドクド……」 美希 「せつなやウエスターやサウラーはともかく、なんでアタシまで……」 祈里 「美希ちゃんは、十分に当事者だと思う……」 ラブ 「あたし、何にも悪いことしてないのに」 美祈せ「してるわよっ!!!」 巫女A「大変です! 寿夭品があらかた出てしまいました!」 神主 「まさかっ! まだ元旦なのにか?」 ラブ 「寿夭品が出てしまったって、なんのこと?」 祈里 「お守りなんかが、売切れそうって意味よ」 巫女B「それに、みんな楽しそうでした。もう、そのくらいで」 神主 「そうじゃな、新しい年は笑顔で迎えるのが一番じゃろう。せつな君」 せつな「はいっ! 反省しています。もうここには……」 神主 「また、明日もよろしく頼むよ。ただし、ハメを外すのはホドホドにな」 せつな「ええ! 私、精一杯頑張ります! じゃなくて、ご奉仕します……」 ラブ 「今年もみんなで、幸せゲットだよ!」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/128.html
彼女の髪は夜の色。顔を埋めるととても優しい匂いがする。 「ラブの髪はお日様みたいね。」 ラブの波打つ様な癖のある明るい色の髪を、せつなは愛し気に撫でる。 「ラブは太陽みたい。」 もう一度、せつなは言う。ラブはくすぐったそうに身をすくめ、 ぴったりと、どんな小さな隙間も無いくらいに肌を寄せる。 柔らかな少女の肌はひとつに蕩けあってしまわないのが不思議なくらいだ。 そして、溶け合えないもどかしさを埋めるように飽きること無くお互いを貪り合う。 「ねぇ、せつな…。名前…呼んでよ……。」 「…ラブ。」 「…もう一度…。」 「ラブ……?」 「もう一度……。」 「ラブ…。………もう、何なの?」 少し苦笑いしながらもせつなは何度も繰り返し呼んでくれる。 「…せつなの声、大好き。」 せつなの声は、少し低くて、柔らかい。その声で甘く名前を呼ばれると、 幸せで全身が蕩けそうになる。 「ねぇ、好きって言って…。」 「…好きよ。…ラブ。」 「ホントに…?」 「大好き。」 「えへへへ…。あたしも…」 大好き、大好き、大好き…。 ラブは少し身を起こし、せつなの唇をついばむ。 軽く、浅く、だんだん深く。 吐息までひとつになるように。 太陽が安らぐのは、たったひとつの闇の中。 また明日も周りを照らせるよう、太陽は自分だけの夜に包まれて眠りにつく。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/59.html
祈里「せつなちゃん、ちょっとイイ?」 せつな「ん?なぁにブッキー。」 せつな「!?って、何???え!?」 祈里「ダメ、静かに。ラブに声聞こえちゃうよ。」 せつな「ちょっと・・・。ダ、ダメだって、、、」 祈里「せつなちゃんのお尻って柔らかい♪」 せつな(///////////) 祈里「せつなちゃんてラブちゃんにゾッコンでしょ?」 せつな「え!?いや、その・・・。私を大切に・・・」 祈里「ラブちゃん羨ましいーなー。」 せつな「わかったか・・・、ら、お尻触ら・・・ないで・・・//////」 祈里「暇な時でイイから、、、たまには私も構って・・・欲しいな・・・」 せつな「ブッキー・・・泣いてるの?」 祈里「ごめん。こんな事して。でも私だってせつなちゃんの事・・・」 せつな「私、どうしていいかわからない。」 祈里「そーだよね。でもたまにでイイから、ほんと。じゃないとまた お尻触っちゃうんだから/////」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/695.html
まだ甘い匂いの漂うリビング。 今年のバレンタインデーは日曜日。桃園家では蒼乃家、山吹家合同の チョコレートパーティーが開かれた。 前日から各種デザートやチョコレート、お父さん達の為のオードブルの 準備に大忙し。 みんながそれぞれに手土産を持って集まる。 甘いお菓子に舌鼓を打ちながらお喋りが弾む。笑顔と笑い声が弾ける。 でも、みんな本当は分かってる。これはせつなのお別れパーティー。 勿論、今日明日に急に会えなくなる訳ではない。 でも、こんな風にみんな集まってワイワイガヤガヤするのは これで当分は無理だろう。 もうすぐ。春が来る前に、せつなにはラビリンスに戻る。 特に誰かが言い出した訳ではない。 お泊まり会を兼ねたパジャマパーティー。庭でやったコロッケパーティー。 その時のせつなの輝く笑顔。楽し気に紅潮した頬。 わざわざお別れ会、なんて言うのは湿っぽくなりそうだから。 だから、みんなで楽しく。美味しい物を食べて。他愛ない冗談を言い合って。 一つでも沢山の笑顔の宝石がせつなの胸に溜まるように。 少しでも多く、宝物をラビリンスに持って帰れるように。 色んな料理やお菓子があるのに、せつなはチョコレートフォンデュに 張り付いてた。特に苺が気に入ったみたいだ。 まるで難しい専門書でも読むような真剣な顔で一心不乱に モグモグと口を動かすせつな。 みんなが苦笑いで見つめているのにも気付かない。 「せつなちゃん、これもどうぞ。」 「アタシのもあげる。」 「苺はぜーんぶせつなのだね!」 他の人も次々にせつなのお皿に苺を盛って行く。あっという間に山盛り。 せつなは真っ赤になってオロオロしてた。 意外に食いしん坊なとこがバレて恥ずかしいのと、純粋に 山盛り苺が嬉しいのとで。 結局、その小山のような苺をせつなは全部平らげた。 楽しかった。笑顔も幸せも溢れてた。 温かくて、くすぐったくて。あっという間に時間が過ぎる。 でも、みんなわざと気付かない振り。 時折、せつなの顔に過る寂しさの色。 まるで春の陽射しの中に、ふと吹き抜ける冬の名残のような身を切る哀しみ。 それを覆い隠すように、笑い声を被せ大袈裟にはしゃいで見せる。 そうしないと、泣いてしまうから。 午後にはお開き。みんなで後片付け。 キッチンで押し合いへし合いしながらお皿洗い。 みんなで一緒ならお手伝いだって楽しい。一時、一時が大切。 噛み締めるように、時が過ぎる。 後片付けも順調に進む。だんだん人が少なくなる。 キッチンにはもう、ラブとせつなだけ。 カチャカチャと言う、お皿を片付ける音だけが響く。 このところ、ずっとそうだ。二人きりになると、途端に沈黙に支配される。 そうしないと………。 行かないで………… 行きたくない…………… 何度も何度も話し合った。 話せば話すほど、せつなのラビリンスへの帰還は固い決定事項となっていった。 ラブには分かっていた。せつながその事を口に出す。 その時点で、せつなの中ではもう決断は揺るぎ無いものになっている事を。 結局、大切な事を一人で決めてしまう性格はそのまんま。 せつなは、そう言う子。 「わぁ!お母さん、綺麗。」 せつなの感嘆の声が上がり、そちらを見ると着飾ったあゆみの姿。 普段は薄化粧に質素な服装のあゆみが綺麗に化粧をし、 華やかなワンピースを着ている。 「うふふ、ちょっと若作りだったかしら?」 「そんな事ない。とっても素敵。」 「うんうん!お父さん惚れ直しちゃうね!」 なんだか照れちゃう。 そう少女のように頬を染めて微笑む母の可愛らしい姿に、 自然と娘達の頬も緩む。 これから圭太郎とデートなのだ。映画を見て、食事。その後は少し飲んで来るらしい。 ついさっきまで同じ家にいたのにデート気分を盛り上げる為、 わざわざ時間差で出掛けて待ち合わせすると言う念の入れようだ。 「じゃ、行ってくるわね。折角の日曜日にごめんなさいね。」 「へーきだよ!子供じゃないんだからさ。」 「うんと楽しんで来てね。」 あゆみは小さな子供にする様に、ラブとせつなの頬を撫でる。 愛しそうに、目を細め。 出掛けるもう一つの理由。ラブとせつなに二人きりの時間を与える為。 空元気のラブ。それを見て見ない振りのせつな。 まだ二人の間で…ラブの中で決着が付いてないのが分かってるから。 仕方ないと諦め、「せつながいなくなる」事実を丸飲みし、 それがつっかえて胸と喉を塞いでいる。 どうしてやる事も出来ないから。 自分で、噛み砕いて飲み下すしか無い事だから。 美希と祈里はタルトとシフォンを連れて帰ってくれた。 たぶん今日は、夜まで二人きりになれる、最後の日。 「いってらっしゃい!」 明るい声で見送る。 そして、また…沈黙。 「………ーー!」 リビングに戻ろうとするせつなを、ラブが後ろから抱き締める。 せつなは、何も言わない。ただ身を任せ、微かに震える。 ラブも、何も言えない。悪いのは、自分だから。 辛さにかまけて、せつなを傷付けたから。悲しませたから。 「ラビリンスに戻る」、せつなにそう告げられてから、ラブはせつなに 指一本、触れられなくなった。 毎日のように抱き合っていたのに。 1日に何度も交わしたキス。 飽きる事なく、数えきれない夜を溶け合ってきた。 恐かった。触れ合ってしまえば、別れが余計に辛くなる気がした。 もうこれ以上の痛みは耐えられない。 それなら、友達に戻った方がマシなんじゃないか。 ただの、一つ屋根の下に住む家族。 我慢して、距離を置いて、そうすれば傷口もいずれ乾く。 別れる頃には、きっと瘡蓋がキレイに剥がれてくれる。 傷痕が残ったって、血を流し続けるよりはきっと苦しくない。 だから…… 「ごめん…なさい………」 「………どして……?」 あからさまな拒絶に、せつなはどれ程傷付いただろう。 無為に過ぎて行く時間。 誰よりも、時を惜しんで過ごしたいのはラブとの時間だったのに。 せつなは変わらない、なんて呆れる資格なんて無かった。 自分こそ、独りよがりな哀しみに酔ってせつなを置いてけぼりにしていた。 「………ごめんなさい。」 「…謝らないで。」 せつなの手のひらが、そっとラブの手に重ねられる。 コツン、と頭を寄せ、目を閉じる。 「……あたしって、馬鹿だよね。」 「……そうね。」 「…否定してくれないんだ…?」 「だって……、馬鹿なんだもの…。」 「……うん…………」 「私が、辛くないとでも思った…?」 きゅ…と力を込める。 何も言い返せない。さすがに、怒ってる……。 そう感じてラブは居たたまれなくなる。 貴重な時間を拗ねて無駄にしてしまった後悔。 誰よりも大切なせつなを、自分のせいで悲しませた。 どうすれば、いいんだろう。 「やっぱり、分かってないでしょ?」 「……?」 「怒ってなんか…ないわ。…………悲しい、だけ。」 「………。」 「ラブを……、悲しませてる…。それが悲しいの。」 「…ーーっ!」 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。 どうして、……あたしは…! 「あたし…ダメだ……ね。」 せつなの事になると、ただでさえ出来が良いとは言えない頭の働きが ますます鈍くさくなるみたい。 「仕方無いわね………。」 でも……、そんなラブが…… 「好きよ。」 じわりじわりと胸に痛みが滲みる。 擦り傷を舐めて貰うような、ヒリヒリして…少し肌が粟立つような感覚。 「許してくれる?」 「ちゃんと、してくれたらね。」 「……?」 「だって…今日は女の子が愛の告白する日なんでしょ?」 ああ、そうか。今日はバレンタインだったんだ。 「どんな風に、すればいいかな……?」 「自分で考えてよ。」 「ヤダ…。もう失敗したくないもん。」 せつなの望む通りに。何でもするから。 「……………。」 「………………。」 多分、望んでいる事は同じ。 でも…せつなから、せつなの口から言って欲しい。 我が儘かな? 散々、身勝手に振り回しておいて。 この際、最後のついで……って、おかしい? せつなに、あたしを欲しがってもらいたいって思うのは。 「何でも、言う事聞いてくれるの……?」 「お約束いたします。」 「…ラブには、もう分かってると思うんだけど?」 「……言わなきゃ聞かない。」 「何だか…結局、私が損してる気がするんだけど。」 「いいの。だって、いっつもあたしばっか欲しがってるじゃん。」 そんな事ないのに。 いや、あるのかな?欲しがる暇がなかったのかも。 いつだって、ラブから求めてくれてたから。 息をするのも忘れるくらい。 ラブに、溺れさせてくれてたから………。 「………あの、ね……」 「うん………」 「やっぱり、言わなきゃ…ダメ?」 「どー……しても、嫌ならいいけど。」 ここでダメって言ってくれたら逆らえるのに。 多分、わざとやってる訳じゃない。 ラブは、本当に嫌な事は強要しないから。 却って言う事聞かなきゃならない気になるのよね。 本当に、ラブは分かってるのかしら? どれくらい、自分が愛されてるか。 いつもいつも、欲しくて堪らないのは私の方だったのよ? 「……抱いて、欲しいの。」 「……せつなのエッチ……。」 「そうよ?知らなかったの?」 ラブが、そうさせた癖に。 「うんと……、たくさん……。」 「……うん。」 「私が……泣いても、やめないで……。」 「それが……せつなの欲しい、告白?」 「そう……。」 ラブからしか、欲しくない。 腕をほどき、向かい合う。 せつなは、恥ずかしがって俯くかと思ってた。 でも…… 真っ直ぐ、目を見てくれた。 今にも泣き出しそうな顔に、切ない微笑みを浮かべながら。 すうっ…と、胸の奥底まで届く眼差し。 どんな言葉よりも、はっきり伝えてくる。 こんなにも、愛してくれてる事を。 何度も、抱き合ったせつなの部屋。 見つめ合いながら、ゆっくりと衣服を落としていく。 露になっていく肌に指を滑らせ、生まれたままの姿で横たわる。 吐息を溶け合わせるような口づけ。 素肌を重ね、お互いの温もりを移し合う。 淡雪を融かすように、白磁の肢体に全身を馴染ませる。 唇から漏れる息が熱を帯びる。 指を、唇を、舌を、余す事なく隅々まで這わせる。 せつなの蕩けたすすり泣きにラブの細胞の一つ一つまでもが 歓喜と愛しさに戦慄く。 淡く桜色に染まり、しっとりと濡れたしどけない体。 ラブの名を呼び、重なり繋がった体を感電したかのように 跳ねさせる。 「あたし、やっとわかった。」 息も絶え絶えに、ラブにしがみ付くせつなを抱き締めながらラブが囁く。 「なんで、あんなに辛かったのか……」 「……ラ…ブ?」 「せつなが、ラビリンスに帰る…って、そう思うのがいけなかったんだ。」 潤んだ瞳で、胸を喘がせているせつなに戸惑いの色。 「せつなは、あたしのもの………」 闇色の髪を掻き上げ、額からキスを刻んでいく。 頬、首筋、鎖骨、柔らかく盛り上がった双丘。 恥じらうように色づく、頂の蕾にも。 滑らかに窪んだ腹部。それから爪先に口付け、今度はそこから膝、腿へ。 そして、快楽に打ち震える艶やかに濡れそぼった花芯へと。 ラブの唇を覚え込ませるよう、深く深く愛撫を染み込ませる。 「せつなは、帰るんじゃないよ?」 ラビリンスに、貸してあげるだけなんだから。 ほんの一時、腕の中からいなくなるだけ。 せつなの居場所はここ。 他のどこでもない。どんなに遠くに行っても帰って来るのは あたしの腕の中なんだからね。 幾度目かの絶頂に身をさざ波立たせながら、せつながクスリと笑みを溢す。 「……?……せつな?」 「…まったく、もう……」 呆れたような苦笑い。 「今頃分かったの?」 ラブの頭を胸に掻き抱きながら、せつなが諭す口調で囁く。 「当たり前じゃない。ここが、私の居場所だなんて。」 「……あたしって、やっぱりバカ?」 「そうかもね。」 お互いの温もりに体を預け、クスクスと笑い合う。 本当に馬鹿みたいだ。まるでこの世の終わりみたいな気分でいたなんて。 「それならそうと、早く言ってよ。」 「まさかそんな当たり前の事、言わなきゃ分からないなんて思わないわよ。」 「やっぱりあたしが悪いの?」 「そうよ。ホントに、馬鹿みたい……」 ぴったりと体の隙間を埋めるように身を寄せ合う。 一時の別れ、そんな台詞は気休めにしかならない事は分かってる。 それでも、言い聞かせるように囁き合う。 お互いに。自分自身に……。 あなたは私のもの。 私はあなたのもの。 「私ってモノだったの?」 「そう。頭のてっぺんから爪先まで、ぜぇんぶ。髪の毛一本まで、あたしの!」 何の意味もない睦言。 でも、繰り返し重ねる言葉は心に緩やかに凪をもたらしてくれる。 どこにいたって、あなただけのわたしだから。 「好きよ。」 「大好きだよ。」 あいしてる。 その台詞はまだ大切にとっておこう。 また、あなたの元に戻って来られるその日まで。 だから、許して下さい。 あなたの腕を、ほんの一時空にしてしまう事を。 今、ここにいる私だけが本当の私なのだから。 酒2-568は後日談ですが18禁につき閲覧注意
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/274.html
コン コン 控え目にドアをノックする音に、しかし、ラブは目覚める。いや、半分、覚めていたようなものだから、 瞼を開けたという方が正しい。 「はい?」 一体、何だろう。目をこすりながら、鍵のかかっていないドアを開けると、そこには。 「ごめんね、ラブ」 パジャマ姿のせつなが、少し怯えた顔をして立っていた。その胸に、自分の枕をしっかりと抱きかかえる 姿に、まだ意識の半分が眠っているラブは首を傾げながらも、可愛いなぁ、と感じてしまう。 「ん、どうしたの、せつな?」 大きく欠伸をしながら問いかけると、せつなは黙ったまま、うるんだ瞳で彼女を見つめてきて。 「あの......ね」 眠れないの。恥ずかしそうに言うその声をかき消すのは、外から聞こえてくる雨と風の音。 その日、クローバータウンには、久しぶりの大型台風が訪れていた。 嵐の夜に 「ごめんね、ラブ」 「別にいいってば」 一つの布団に、二人は一緒になってくるまる。赤いカバーのかけられた枕に頭を乗せ、申し訳なさそうに 言うせつなの顔を薄暗闇の向こうに見ながら、ラブは苦笑する。 「しょうがないよ。誰にだって怖いものはあるもの」 「うん......」 恥ずかしそうに頷いて、彼女は口元まで布団を被る。その耳に聞こえてくるのは、地面に叩きつけられる雨と、 激しく渦巻く風の音。それが怖くて、せつなはラブの部屋に避難してきたのだ。 「けど、意外だな。せつなが台風が苦手だなんて」 「そう?」 「うん。だってほら、ハピネス・ハリケーンって台風みたいじゃない」 「ハリケーンは竜巻よ。台風はタイフーンだわ」 妙なところにムキになって反論するせつなだったが、一層強い風が窓を震わせると、ビクリと肩を震わせて。 そんな彼女に、ラブはよしよしとあやすように布団の上からその体を軽く叩く。 「大丈夫だよ、部屋の中にいれば、何もないって」 「うん......わかってるんだけどね」 いつもは、何があっても強がりを言う彼女とはとても思えない、弱々しく素直な声。吐く息が首をくすぐる程の 近くで覗き込むラブの瞳に、せつなは弱々しく笑って見せた。 「やっぱり、苦手なの。台風の音って」 「どして?」 少しおどけたように、彼女の口癖を真似るラブの肩を、もう、と言いながら彼女は軽く叩く。ごめんごめん、 真面目に聞くよ。そう笑う彼女に疑いの眼を向けつつ、せつなは胸の内の不安を吐き出す。 「ラビリンスには、台風なんて無かったからっていうのもあるけれど――――この、風と雨、嵐の感じが、すごく怖い」 確かに変よね、と彼女は苦笑した。吹き荒れよ、幸せの嵐。その言葉と共に必殺技を放つ彼女が、嵐を 苦手とするなんて。 だがしかし、怖いと思ってしまうものはしょうがない。 「こっちの世界に来てすぐの頃だったかな。前に、ひどい嵐が来たことがあったでしょう?」 「そういえば、そんなのもあったねぇ」 あれは春先のことだったか。季節外れ、という程ではないが、ひどい嵐が街を襲ったことを思い出す。それを 覚えていたのは、楽しみにしていた家族旅行が、それで中止になったからだ。 轟々と吹きすさぶ風と窓に叩きつける雨、それを部屋の中から恨めしそうに見つめながら、早く雨が止まないか、 何とか出かけられないかと願っていたものだった。 まだ、せつながこの家に来る前の話だ。 「あの時、私、まだ占いの館に来たばっかりでね」 「うん」 「あの建物、見た目は古いけれど意外にしっかりしてるの。けどやっぱり、あの嵐の時は、ひどく家がきしんでね」 ギィ。ギィ。初めて体験する嵐のすさまじさに加えて、音を立てて震える家に、その頃はまだイースと名乗って いたせつなは、慄いたものだった。 なんだ、この世界は。この、嵐というものは。全てが吹き飛ばされてしまうのではないか。 不安に胸を締め付けられながら、彼女は一人、館の自室から空を見上げていた。 「なんだかね、すごく、自然の大きさを感じたというか、自分がちっぽけに思えたというか」 「うんうん」 自分の中に理由を探すせつなに、ラブは小さく笑いながら頷く。その瞳は今、慈愛に満ちたものになっていて。 「とにかく、なんだか自分がとっても無力な存在に思えて......」 「せつな」 不安を隠すように喋り続ける彼女の体を、唐突にラブは抱きしめる。 ギュッと。強く。 「ラ、ラブ?」 「大丈夫だよ」 驚いて目を見開くせつなの背中を優しく撫でながら、その耳元でラブは囁く。 「アタシがいるって。せつなはもう、一人じゃない」 あ、と小さく彼女は息を飲む。そして、 「もう、ラブったら」 かなわない、と思う。自分の本当の気持ちを的確に見抜いて、一番の薬を与えてくれるのだから。 台風は、嵐は、確かに怖いと思う。 けれど今日、せつながラブの部屋を訪れた、本当の理由は。 あの時、館の中で一人、怖がっていた自分を思い出したせい。 ウエスターやサウラーには、頼ることなどとても出来なかった。だから、心細いのを必死に我慢した。夜は布団を頭まで被り、じっと嵐が過ぎ去るのを待っていた。 そんな風に、孤独だった頃を思い出して、せつなは耐え切れなくなったのだ。一人でいることが。 嵐だけなら、一人で我慢出来る。けれど孤独は。 「怖いの怖いの、飛んでいけ」 不意にラブが優しく口ずさみ、せつなの体を強く抱きしめた。 「なぁに、それ?」 「おまじないだよ。せつなを守ってくれる、ね」 体を離し、互いの顔を間近に見つめながら、少女達はこそぐったそうに笑い合う。その声は、タルトやシフォンを 起こさない程度に小さく、だがとても晴れやかなもので。 「ね、ラブ」 「なに、せつな」 「――――もう一度、ギュッて、して?」 頬を染め、照れ臭そうに目をそらしながら言うせつなの頭を、ラブはすぐに優しく、だが強く、胸に抱きしめる。 感じるぬくもりに、安らぎを覚えながら、彼女は思う。 私を守ってくれるのは、おまじないじゃない。貴方よ、ラブ。 やがて時を置かずして、聞こえてくる健やかな寝息、一つ。 「もう、寝ちゃった?」 小さな、小さな問いかけは、電気を消した部屋の暗闇の中に溶けていって。 そして寝息は、二つになった。 翌朝。 「わぁ......」 カーテンを開けたせつなは、一面の青空に思わず息を飲む。どこまでもどこまでも続く、青。 「ん......」 差し込む光に、目をこすりながら体を起こしてくるラブに、せつなはとびきりの笑顔を向けて言った。 「おはよう、ラブ」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/70.html
ラブ「せつな、あたしも入ってもいい?」 せつな「っっ!!まだいいって言ってないでしょ!」 ラブ「隠さなくてもいいじゃん。せつな結構オッパイおっきいんだね~」 せつな「ちょっ!触らな…あん…や…め…」 ラブ「あれ-何かせつなの先っぽとがってきたよ?固くてコリコリしてる」 せつな「…ふぁ…駄目…」 ラブ「せつな…すんごく可愛い。続きはあたしの部屋でしよっか」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/33.html
ラブ「せつな~、お菓子たーべよっ♪」 せつな「夜に食べたら太るってラブが教えてくれたじゃない。」 ラブ「う・・・ぅ。」 せつな「でもラブが食べさせてくれるなら私・・・///」 ラブ「せつな・・・///」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/644.html
「とうぶんお別れね、ラブ」 「そうだね、せつな」 「わたしがいなくてもちゃんと起きられるかしら?」 「もー子供扱いしないでよー」 いつもの会話、いつもの笑顔。 二人はこれが最期だと言うのを、まるで気付かないフリをしているかの如く。 「だいたい、アカルンがあればいつでも戻ってこられるんだもん。そんなに悲しむこともないよね!」 「そ、そうね」 「そうだよ!」 嘘。 せつなはラビリンスの再建が完遂出来るまでは、ラブ達とは合わないことを決めていた。 それがメビウスを裏切り、そして、次はラブから離れる自分への罰だと。 ラブもその事には気付いていた。 「・・・幸せ、ゲットだよ!」 「・・・精一杯頑張るわ!」 「ふふっ」 「あはは・・・」 「じゃあ、そろそろ行くから・・・」 「ん・・・」 そう言って離れかけた手を、ラブは再び掴む。 「ねえ、せつな」 「な、なに・・・?」 「幸せに・・・」 「・・・ラブ?」 「あたしも幸せになりたい・・・!」 「!」 「せつなと一緒に幸せになりたいよ!どうしてダメなの!?せつなはあたしと一緒じゃ嫌?」 「違うの・・・。私はラビリンスを・・・、自分の故郷を守らなきゃいけないから・・・。 精一杯頑張らないといけないから・・・だから・・・」 「嫌だよ!それがあなたの幸せでも・・・。あたし・・・嫌・・・!あたしもあなたと・・・せつなと・・・」 「ラブ・・・」 「・・・あはは!なーんちゃって!ごめんね!変だよね!こんなの・・・ちょっと・・・変だよね・・・」 「ラブ・・・」 「あはは・・・じゃ、じゃあね!頑張ってねせつな!バイバーイ!」 「ちょ、ちょっと・・・!」 ぐちゃぐちゃになった顔で、ラブは笑顔の真似事をしようとするが、激流のように押し寄せる感情の前では無駄な試みだった。 それを気付かせまいと、顔を俯けたまま走り去るラブを、せつなは呆然と見送るしかなかった。 「あの子が、いつも自分よりも他人を優先させるラブが、あんなこというなんて・・・」 「準備はできたのかイー、・・・せつな!」 「その様子だと、まだ心の準備がついていないようだね。」 シフォンの力で命を、プリキュアとの絆で人間らしい心を取り戻した西隼人と南瞬。彼らは、東せつなのラビリンスへの 帰還に思う所があるようだった。 「そんな事はないわ。みんな笑って見送ってくれた。私も心の整理は・・・ついている。」 「みんな?」 「みんなって・・・誰だよ!?」 厳しい眼でせつなを見つめる瞬と隼人 。 「みんなは・・・みんなよ!」 「そのみんなの中に桃園ラブは入っているのか?」 「・・・!あなたたち、見てたの!?」 今度はせつなが二人を睨み返す。 「桃園ラブは、みんなで幸せゲットしようと言った。」 「だから私は、ラビリンスのみんなの幸せのために・・・!」 「桃園ラブの幸せはどうなる!?」 「!」 「お前の幸せもだ、イー・・・せつな!」 「僕たちはプリキュアから集団としてではなく、個人個人、みんなを幸せにする事が大切だと学んだ。」 「ここにいるみんなが幸せになる事。メビウスからの脱却。これが俺たちのするべき、第一歩だと考えている。 だから、お前と桃園ラブには幸せになってもらいたい。」 「一方的な理屈で・・・!」 「おいおい。これは君たちが教えてくれたことじゃないか、東せつな。」 「そうだぞ!イース!素直になれ!」 何故か、嬉しそうな顔でせつなを見下ろす二人。隼人に至っては名前の訂正すら忘れてしまっている。 「なんと言われようと、私はラビリンスを再建する!これはもう私が決めたことなの!邪魔しないで!」 「やれやれ、強情な子だな。」 「そう言う所は変わってないんだからなー。」 目配せする二人。 「やるか?」 「ああ」 「あなた達・・・まさか!?」 ―――スイッチ!オーバー!――― 「「ホホエミーナ!我に力を!」」 二人がホホエミーナのダイヤを投げると木々に刺さり、木の形をしたホホエミーナとなった。 木の形をしたホホエミーナは二人とせつなを遮断する壁となった。 「じゃーなーイース、じゃなくてせつな!また本場のドーナッツ食べにくるからなー」 「しばしのお別れだ、東せつな。他の三人によろしく。」 「こら!待ちなさい!瞬!隼人!待ちなさいったら!どうしてあなた達はいつもそう勝手なのよ! 私の言う事なんか・・・私の言う事なんか一度だって聞いてくれやしない・・・」 「そんな事はないぞせつな!俺たちは確かに聞いた!」 「そう、ここに留まりたいと言う君の心の声をね。」 「だから最後ぐらいはお前の言う事も聞いてやろうと思ったわけだ!ハッハッハッハ!」 「あとは君が、君の心の声を聞いてあげる番だよ。」 「そう言う訳だ!じゃあな!また会おう!」 ホホエミーナも消え、木々は元に戻り、静寂が再び訪れた。 「そうだ・・・アカルン!アカルンがあれば私もラビリンスに・・・」 呆然とした眼で、何かに操られるようにアカルンを取り出すせつな。 「おねがい、アカルン・・・私もラビリンスに・・・」 「キー?」 「あ、ちょっと!」 なんと、せつながアカルンを取り出そうとするとアカルンが逃げ出してしまった。 アカルンはふわふわと漂うようにどこかへ行ってしまう。 「キー!」 「待って!アカルン!私はあなたがいないと・・・!」 「キー!キー!」 何か憤った様子でアカルンはどんどんどこかへ行こうとしている。 「待ってったら!」 せつなは懸命に追いかけようとするが、せつなの走るスピードよりほんの少しだけ速いスピードでアカルンは飛んで行く。 「キー♪」 「ねえ、ミキたん、ブッキー」 「なぁに?」 「振られちゃったんだ・・・」 「何?また友達の話?」 「うん。そう。友達の話」 「・・・そっか」 いつもの公園のいつもの場所。カオルちゃんのドーナツ屋さんの前。三人はいつもと変わらない様子に見えた。 「ラブちゃん・・・無理しなくて良いよ・・・」 「何が?」 「食べたくもないのに、元気を装ってそんなにドーナツ食べてると体に毒よ?」 「そんなことないもん。あたし元気だもん。」 「せつなちゃん、まだラビリンスに帰ってないかも。」 「引き止めなくて良いの?ラブ。」 「せつななら大丈夫だよ!きっとラビリンスを元気な町にしてくれるって!」 「そうじゃなくて・・・」 「ラブちゃんは・・・どうなの?」 「あたし・・・あたしは・・・せつなが、みんながラビリンスのみんなと幸せゲットしてくれれば・・・」 「もうイヤ!」 美希は激しい勢いで立ち上がり、ラブを睨みつける。 「ミキたん・・・?」 「あなたのその空疎な持論にはもうウンザリ!みんなって誰よ!そのみんなの中に入ってないのよ!あなたが!そしてせつなも!」 ちょっと来なさい!」 「ちょ、ちょっと、ミキたん!?」 「いこ、ラブちゃん。せつなちゃんに会いに!」 「ブッキー・・・」 二人と、その二人に引っ張られる一人の合計三人はドーナツ屋さんから離れ、公園を後にした。 「ここは・・・」 気がつくとそこは森であった。 イースが倒れ、4人目のプリキュアが生まれたあの森。 「キー♪」 「あなた、ここに連れてきたかったの?」 「あ、やっぱりここにいた!」 「ブッキー!それに美希!」 「ほら、出てきなさいよ!」 美希が呼びかけると、木の陰からおずおずとラブが出てきた。 「せつな・・・」 「ラブ・・・」 今までのことが走馬灯のように頭をめぐる。 占いの館で初めて出逢った日のこと。 イースとして初めて対峙し、そしてせつなとして初めて対峙した日のこと。 キュアパッションとして生まれ変わった事。 ラブと一つ屋根の下で過ごしたかけがえのない日々。 せつなはいつの間にか顔を真っ赤にして、涙を流していた。 そう、これが本当の気持ち。罪悪感に囚われ、閉じ込められていた本当の気持ち。 私は、桃園ラブと一緒にいたい。片時も離れず、ずっと、一緒に・・・ 「わあああああー!ラブー!」 「せつなー!」 強く抱き合う二人。お互い、びしょびしょになりそうなほどの涙を流しながら、二人は強く抱き合う。 「ごめんね、せつな。あたし・・・ちゃんとせつなを笑って見送れるようにって、せつなが幸せゲットできるようにって、 頑張ろうとしたけど・・・一生懸命頑張ろうとしたけど・・・」 「いいの、ラブ・・・。私が、あなたの幸せになるわ。私が幸せになって、あなたにゲットされてあげる。 これからは、ずっと、一緒に・・・」 「これで、ようやく、みんなで幸せゲット、って訳ね。」 「わたし達、完璧!」 「ブッキー!それアタシのセリフ!」 「あはは、ごめーん」 「さ、帰るわよブッキー。」 「え?このまま二人をほっといていいの?雨降ってきそうだよ?」 「やぁねえ、このままがいいんじゃない。こ・の・ま・ま・が。」 祈里の予想通り、確かに雨は降ってきた。 だがそれは暖かく、優しい雨。 二人の涙をぬぐい去ってくれるような、優しい雨だった。 おわり